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しん・すいこでん
新・水滸伝
吉川 英治
「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页
次の間の帳を引けば、当然、山僧が孤床の寝台は、五戒三帰の菩提の夢、雲冷ややかなはずであるが、どうして、迦陵頻伽の刺繍の襖、紅蓮白蓮の絵障屏も艶かしく、巧雲は顔を袂にくるんだまま、身を捻じ曲げて、
「アア」
と、練絹のようにそれへ横たわると、もう身も世もない姿だった。同時に、彼女の肌の蒸れでもない妖しい香気、それも薫々と身悶えを感じるような匂いの底に焚きくるまれる。
枕床にある宋青磁の小香炉から、春情香のけむりの糸が目に見えぬ小雨の一ト条ほどな細さに立ち昇っていたのである。それさえあるに、さきの酒には媚薬が混じてあったことゆえ、彼女の体のうちのものは正常な位置と唯のひそかな呼吸にあきたらず、誰かその唇を窒息するほど吸ってくれて、そして体の奥所のものに肉の縛めと血の拷問を加えてくれるような力を望むらしく、ウームとくるしげに眦さえも吊ッて、身もだえして見せるのだった。
「おくるしいんですか。え、お寝れませんか。上の着衣など、お脱ぎになっては」
「ひどいわ。薄情ねえ」
「あれ、泣いていらっしゃる」
「だって、泣かすんですもの」
「どうして」
「わたしをこんなにして」