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しん・すいこでん

新・水滸伝

吉川 英治

「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页

青空文庫

「とっくに山上でございますよ」

「ちと、遅かったか」石秀は足をはやめた。

谷も、鳥の声も、目の下に沈む。

「おう、兄貴」

「やあ、来てくれたか、石秀」

「待たせたらしいな。すまない、すまない。が、どうなすったんです。義姉さんは」

「巧雲か」

「どこにも見えないじゃございませんか」

「いや来ている。いま会わせるよ。……が、まず寂かな景だ。一杯、息やすめに飲まないか」

「麓で轎舁きたちも飲んでいた。じつあそれを見てから、急に喉がグビついていたところでさ。一杯いただきましょうか」

岳廟の前に並んで腰をかけ、楊雄がたずさえて来た二箇の瓢酒も、たちまち二人でカラにした。

「どれ……」と、楊雄はさきに腰を上げ、「じゃあ、石秀。巧雲に会ってもらおうか」

「お。どこにいるのか」

「この裏だ」

数歩。――石秀はそこで、ぎょッと立ちすくんでしまった。

巨木の幹に、半裸とされた女が縛り付けられている。

巧雲だ。すこし離れて、小婢の迎児も縄目のまま、灌木の中に打ッ抛らかしてある。

「兄貴、いったい、これは? ……」

「約束どおりさ、巧雲から君へあやまらせるのだ。……ここまで、女房を連れ出すにも、なかなか、なんのかのと言い渋るので手拈ずッたが、俺の夢見に二タ晩も岳廟の神があらわれて、きょうまでの魔邪は水に流し、以前の夫婦仲を誓い直せと、お告げあったから行こ