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しん・すいこでん
新・水滸伝
吉川 英治
「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页
――というと獄屋の境もないようだが、そうではなく、元々この鼓上蚤ときては稀代な“忍び”の達人で、骨はやわらかく、体は海鼠のように、緊縮自在なのだった。――それにまた気が向けば、獄を我が家のように心得、自分から帰って来ることもあるし、世間の生きている人間へは、かつて加害者となったことのない男だけに、牢番と相牢の仲間も、すべて笑ってこれを見ているという変り者でもあるのであった。
「なるほど、変ってますな」
石秀は、聞き終って、もういちど時遷の風態を見直した。なるほど妙に愛嬌があって小ッこい顔だ。目は細く、常に、日光をおそれるごとく眩そうであり、顔じゅう、茶色の生ぶ毛を持ち、笑うと不気味な歯並びが刃物のように真白だ。
「兄貴」
と、石秀は楊雄の耳へ口をよせて、
「……これも一能のある男。殺すのはもったいない。といって、生かしておけば、ここで見られた俺たち二人の所業から落ち行く先まで世間へむかって喋べられる惧れもある。……どうでしょう、いっそのこと、梁山泊へ誘って一しょに連れて行っては?」
すると、聞こえもしないはずなのに、時遷は跳び上がってよろこんだ。
「どうか、お連れなすッておくんなさい。