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しん・すいこでん
新・水滸伝
吉川 英治
「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页
「やや。それは惜しいことをされましたな」
「え。可惜とは、また何で?」
「その童子こそ、天師のご化身だったにちがいありません」
「げっ、あれがか」
「お勅使にムダぼね折らせても、おきのどくと思われ、一瞬に、都から翔け来たッて、はや立ち帰れと、おさとしなされたものでしょう」
「ああ……。そうとは、知らなかった」
「が、まあ。ご安心なさるがよい。そういう示顕のあるからには、おん大将がご帰京ある頃には、もう天師の神妙力にて、かならず、ご勅願はかなえられているに相違ございません」
なぐさめられて、その晩は、霧深い一古殿で昏々と眠った。
「この上は、ぜひもない、勅願の詔を、上清宮の本殿に納め奉って、一日もはやく、都へ帰ろう」
臍を決めて、こう告げると、真人は、十人の道衆に命じて、
「お勅使を、元の上清宮まで、お送りしてあげよ」
と、いった。
洪は、十道士にかこまれて、石門を出た。歩むことやや半日。だが、これはどうしたことだ。あんなにも、幾昼夜の難所、虎や毒蛇にも襲われて登って来たものが、降りとはいえ、坦々と平地を歩むような愉しさである。そして、またたくまに、宝塔仙館の甍が霞む、以前の三清宮へついてしまった。