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しん・すいこでん

新・水滸伝

吉川 英治

「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页

青空文庫

日をへて、早くも祝家荘の領内へ着く。

敵の本拠、独龍山の影も、その日、空の彼方、昼靄のうちに早や指させた。

「まず、偵察が先だが」

と、宋江は、司令部とする幕舎を張らせて、粗末な椅子につくとすぐ、花栄とふたりで、仮に独龍山三荘図と称する、軍用絵図をひらいていた。

「花栄君、どうもこれだけでは、よくわからんしまた、信用して、実戦の指針とするわけにはゆかないね」

「もちろんです。何しろ、実測した絵図ではなく、俄か作製の案内図に過ぎませんからな」

「特に、世間では、祝家荘の魔の道とかいわれている。万一の日の防ぎに、周到な用意がなされているのだろう。めったに、この線から先へは乗り込めまい」

「まず、物見隊を入れてみましょう」

「いや大勢はいけない。さりげない、探りを放してみるにかぎる」

すると、幕舎の幕の間を割って、ぬっと、赭黒い面をつき出して言った者がある。

「こころえた。あっしが行って、悉皆、道をしらべて参りましょう」

「ああ、李逵か。きさまではいかん。ひっこんでおれ」

「なぜです、先生」

「おまえの二挺斧がものをいうのはまだ早い。人には人の能がある」

「黒旋風では役に立ちませんか」