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あらじょたい
日本の文学 9 徳田秋声(一)
徳田 秋声
線上閱讀徳田 秋声《日本の文学 9 徳田秋声(一)(あらじょたい)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 346,393 字 · 692 頁
八十
お庄は目に涙を一杯溜めていた。
「どうかしたの。」と、磯野は薄笑いをしていた。しばらくしてから、勘定が足りなくて、磯野のもじもじしていることが解った。
「勘定なんぞどうでもいいんです。」と、お庄は邪慳そうに言ったが、磯野はまだそこにもじもじしていた。
八十
磯野を送り出してから、お庄はしばらく座敷にぼんやりしていた。
磯野はまだ話したいこともあるから、金助町の方へ来たら、一度訪ねてくれと、靴の紐を結びながら言っていたが、お庄は磯野のここへ来たことを、伯母などの耳へ入れたくないと思った。十八の年に初めて男に逢ったのが磯野で、それから三年ばかり関係していた。田舎から出て来てからは、磯野も比較的落ち着いて勉強していたし、お増の事件さえなければ二人の交情は何のこともなく続けられたかも知れなかった。磯野も始終気の移って行く男だから、あれで別れてかえってよかったようにも思えたが、やきもきしてこっちから騒ぎを大きくした傾きのあったのがくやしかった。
お庄はそこに坐って少しばかり銚子に残っていた酒を注いで、独りで飲んだ。器などの散った部屋には今まで差していた西日の影が消えて、野良くさい夕風が吹いていた。