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あらじょたい

日本の文学 9 徳田秋声(一)

徳田 秋声

線上閱讀徳田 秋声《日本の文学 9 徳田秋声(一)(あらじょたい)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 346,393 字 · 692 頁

青空文庫

四十七

」と、時々それを言い出していたお銀は、この機会に出来るだけの好意を示すことを忘れなかった。

新しく仕立てたり、仕立て直したりした幾色かの着物の上に、お銀は下谷から借りて来た欽一の兵児帯なども取り揃えた。

「角帯もいいけれど、これも持っておいでなさいよ。」

欽一はそのころ、その弟と前後して、軍医として戦地へ渡った。

四十七

郷里へ帰って行った笹村は、長くそこに留まっていられなかった。大きな旧城下の荒れた屋敷町の一つに育って来た笹村は、長いあいだ自分の生い立って来た土地の匂いを思い出す隙もないほど、目が始終前の方へ嚮いていたが、そのころ時々幼い折の惨めな自分の姿や、陰鬱な周囲の空気を振り顧るようなことがあった。姉に手をひかれてはじめて歩いてみた珍しい賑やかな町や、近所の女の友達と一緒に蟋蟀を取ってあるいた寂しい石垣下の広い空地の叢の香、母親の使いで草履の音を忍ばせて、恐る恐る通りぬけて行った、男の友達の頑張っている木蔭の多い、じめじめした細い横町、懶けものの友達と一緒に、厭な学校の課業のあいだを寝転んでいた公園の蕭かな森蔭の芝生――日に日に育って行く正一を見るにつけて、笹村はここ十年来の奮闘に疲れた頭に、しみじみそこのなつかしい空気が嗅ぎしめて見たいような気がした。