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あらじょたい
日本の文学 9 徳田秋声(一)
徳田 秋声
線上閱讀徳田 秋声《日本の文学 9 徳田秋声(一)(あらじょたい)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 346,393 字 · 692 頁
七十八
お庄はその時帳場を離れて、料理場から物置の方へ出ていた。
「私に。」と、お庄はじめじめした物置の蔭に積んである薪に体を凭せていながら、胸を騒がせた。
「あの人が私を知っているとでも言うの。」
「何ですか、ただお目にかかりさえすれば解るからって……。」
お庄はそこから庭の方へそっと出て行って見た。あれほど不人情な仕向けをしておきながら、のこのこ嫁入り先へやって来た男の愚かしい心持が腹立たしいようであったが、床柱のところに胡坐を組んで、団扇遣いをしているその姿が目に入ると、何のことも考えていられなくなった。
「しばらくだったね。」と、磯野に挨拶されると、お庄は胸が一杯になって、涙が湧き立つようににじみ出て来た。
磯野の目にも涙が溜っていた。
「どうして来たんです。」と、お庄はめずらしくチョッキに金鎖などを光らせている男の様子を見ながら、大分経ってから、やっと口を利くことが出来た。ここへ来るためにわざわざこんな身装を拵えたのであろうと、お庄はしっくり体に合っていない洋服などがおかしかった。
「僕は実に悪いことをした。お庄ちゃんにも済まなかった。」と磯野は気弱そうな調子で言い出した。