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あらじょたい

日本の文学 9 徳田秋声(一)

徳田 秋声

線上閱讀徳田 秋声《日本の文学 9 徳田秋声(一)(あらじょたい)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 346,393 字 · 692 頁

青空文庫

八十六

「今ごろは押入れでも開けて見て、びっくりしているかも知れませんよ。」

時計を見ると、芳太郎がいつも帰って来る時分までには、たっぷり一時間の余裕があった。

八十六

その晩のうちに、お庄は雨のなかを湯島まで逃げて来た。

目立たぬ黒絣の単衣のうえに、小柄な浅山のインバネスなどを着込んで、半分窄めた男持ちの蝙蝠傘に顔を隠し、裾を端折って出て行くお庄のとぼけた姿を見て、従姉は腹を抱えて笑った。

「かまうもんですかよ。彼奴にさえ見つからなけアいいんだ。」と、お庄は用心深く暗い四下を見廻しながら出て行った。

寂しい士官学校前から、広い濠端へ出たころには、強い風さえ吹き添って来た。お庄は両手で傘に掴まりながら、すたすたと走るようにして歩いた。俥があったら乗ろうと思ったが、提灯の影らしいものすら見当らなかった。見附の方には、淡蒼い柳の蔭に停車場の明りが見えていたが、そんなところへ迂闊に入り込んで行くことも出来なかった。

そこからは道が一条であった。神楽坂の下まで来ると、世界がにわかに明るくなった。人の影もちらほら見えていた。ぐっしょり雨に濡れたお庄は、灯影を避けるようにして、揚場の方へ歩いて行った。