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あらじょたい
日本の文学 9 徳田秋声(一)
徳田 秋声
線上閱讀徳田 秋声《日本の文学 9 徳田秋声(一)(あらじょたい)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 346,393 字 · 692 頁
後から暗い影の附き絡っているような東京を離れて、独りで遠くへ出るにしても、母親の体の落着きを見届けておかなければならぬとも思った。
お庄はジミな絣に、黒繻子の帯などを締めて、母親を世話した近所の家まで訪ねて行った。
その家は氷屋であった。主はお庄たちと同じ村から出た男で、兜町の方へ出ていた。お庄の父親とも知らない顔でもなかった。
母親のいる家は、伝通院のすぐ下の方の新開町であった。場末の広い淋しいその通りには、家がまだ少かった。出来たてのペンキ塗りの湯屋の棟が遠くに見えたり、壁にビラの張られてある床屋があったりした。
四、五軒並んだ新建ちのうちの一つが、それであった。まだ木の香のするようなその建物について、裏へ廻ると、じきに石炭殻を敷き詰めたその家の勝手口へ出た。
新壁の隅に据えた、粗雑な長火鉢の傍にぽつねんと坐り込んでいる母親の姿が、明け放したそこの勝手口からすぐ見られた。台所にはまだ世帯道具らしいものもなかった。裏は崖下の広い空地で、厚く繁った笹や夏草の上を、真昼の風がざわざわと吹き渡った。
お庄は母親の隠れ家へでも落ち着いたような気がして、狭い茶の室へ坐り込んで日の暮れまで話し込んでいた。