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あらじょたい

日本の文学 9 徳田秋声(一)

徳田 秋声

線上閱讀徳田 秋声《日本の文学 9 徳田秋声(一)(あらじょたい)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 346,393 字 · 692 頁

青空文庫

三十六

大分経ってから後で知ったことではあったが、昔二人が狎れ合った時のことが、笹村にも想像され得るようであった。

三十六

M先生が病苦を忘れるために折々試みていたモルヒネ注射も、秋のころは不断のようになっていた。注射が効力をもっている間の先生の頭脳は、頸垂れた草花が夜露に霑ったようなものであった。

「何ともいえぬ微妙な心持だ。」と言って、先生も限られたその時間の消えて行くのを惜しみ惜しみした。

先生の仕事のもう揚っている笹村は、慌忙しいような心持で、自分の創作に執りかかっていた筆をおいて、時々先生の様子を見に行った。衆は交替に、寂しい病室に夜のお伽をすることになっていた。先生の発言で、めいめい食べ物を持ち寄って、それを拡げながら夜すがら酒をちびちび飲んでいることもあった。お銀は笹村のために、鶏と松茸などを蓋物に盛った。

「うまいものを食っているね。」などと、先生は戯れた。

ある日も笹村は、八時ごろまで書いていて、それから思い出して出かけた。雨風のかなり劇しい晩で、町には人通りも少かった。

床ずれの痛い寝所にも飽いて、しばらく安楽椅子にかかっている先生の面はすっかり変っていた。