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あらじょたい

日本の文学 9 徳田秋声(一)

徳田 秋声

線上閱讀徳田 秋声《日本の文学 9 徳田秋声(一)(あらじょたい)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 346,393 字 · 692 頁

青空文庫

その晩笹村は、広い二階の一室で、二、三杯の酒に酔って、物を食べたり、母や姉たちと話に耽ったりして、鶏の鳴くまで起きていた。昔風の広い式台のところまで出迎えた母親や姉は、そうして話しているうちに、初めて目に映った時の汚さがようやくとれて来たが、それでも顔は皆変っていた。長いあいだの気苦労の多い生活と闘ったり、もがいたりして来た痕が、いたましいほどこの女たちの老けた面に現われていた。

翌朝笹村は、汽車のなかで舞い込んだ左の目の石炭滓を取ってもらいに、近所の医師を訪ねた。中学に通っている時分、軽い熱病にかかったり、脳脊髄に痛みを覚えたりすると、ここへ駈けつけて来たが、家はその時の様子と少しも変りがなかった。髪の薄かった医師も、それより以上禿げてもいないのが不思議のようであった。

笹村は二、三日、姉たちの家や、兄の養家先などを廻ってみたが、町にはどこを探ねても、昔の友人らしいものは一人もいなかった。

忘られていた食べ物の味が舌に昵んで来るころには、笹村の心にはまた東京のことが想い出されていた。そして久しぶりで逢うわが子の傍へ寄って、手紙ではとても言い尽せない周囲の紛糾った事情や、自分の生活状態について、誰に打ちあけようもない老人の弱い心持を聞いてもらえるような機会を捕えようとしている老母の沈んだ冷たい目からのがれる