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あらじょたい

日本の文学 9 徳田秋声(一)

徳田 秋声

線上閱讀徳田 秋声《日本の文学 9 徳田秋声(一)(あらじょたい)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 346,393 字 · 692 頁

青空文庫

お銀は人の肩越しに、足を爪立てて、花道から出て来る八百蔵の加藤を、やっと頭の先だけ見ることができた。ぼっとしたような目には、桟敷に並んでいる婦人たちの美しい姿がだんだん晴れやかに映っていた。お銀は十年ほど前に、叔父と一緒に一世一代だという団十郎の熊谷を見てから、ここへ入るようなこともなかった。

やがて下りた浅黄色の幕が落ちて、宗十郎の小西がそこへ現われて来るころに、お銀は真蒼な顔をして後の方へ退って行った。そして頭を抑えながら、苦しそうに呼吸をはずましていた。

「目がぐらぐらして、わたし何だかそこらが真暗……。」

笹村の手に縋って、廊下の方へ出たお銀は、「あなた私もう駄目よ。」と、泣き声を出してじきにそこへ倒れてしまった。

しばらくお銀は運動場へ出て、風に吹かれていた。亜鉛の板敷きに、べったり坐っているお銀は、少しずつ性がついて来た。笹村はじきに外へ連れ出した。

お銀はコートについた埃も払わずに、蒼い顔をして、薬屋を捜した。目にも涙がにじんで、手足が冷えきっていた。

「どうしてこう弱くなったんでしょう。」

呟きながら、川端を歩いているお銀の姿を、笹村は時々振り顧ってみた。