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あらじょたい

日本の文学 9 徳田秋声(一)

徳田 秋声

線上閱讀徳田 秋声《日本の文学 9 徳田秋声(一)(あらじょたい)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 346,393 字 · 692 頁

青空文庫

茶の間から通うようになっている厠へ客の起つごとに、お銀は物蔭へ隠れていなければならぬ場合がたびたびあった。そのころお銀は京橋の家へ行くことをすっかり思い止まっていた。二階は危いというのも一つの口実であったが、ここを離れてしまえば、後はどうなって行くかという不安が、日増しに初めの決心を鈍らせた。

「……それに私だって、余所へ出るとなれば手廻りの世帯道具くらい少しは用意しなけア厭ですもの。いくら何でもあまり見すぼらしいことしてお産をするのは心細うござんすから。」

お銀のこのごろの心には、そこへ身のうえの相談に行ったことすら、軽挙のように思われて来た。

「あんな窮屈な二階住居で、お産が軽ければようござんすけれど、何しろ初産のことですから、どんな間違いがないとも限りませんもの。」

「こればかりは重いにも軽いにもきりがないんですからね。」と、母親も傍から口を利いた。

笹村は黙って火鉢に倚りかかりながら、まじまじと煙草を喫していた。麻の葉の白くぬかれた赤いメリンスの前掛けの紐を結えているお銀の腹のめっきり大きくなって来たのが目についた。水気をもったような顔も、白蝋のように透き徹って見えた。