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たんげさぜん

丹下左膳

林 不忘

Read 丹下左膳 (たんげさぜん) by 林 不忘 (はやしふぼう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 241,861 characters · 480 screens

Aozora Bunko

やいっ、ぬすっと!」

「盗人だ? 畜――!」

畜生っ! とどなるつもりで、口をあけた拍子に、その口の中へうまく不知火銭が舞いこんで、奴さん、眼を白黒しながら、

「ありがてえ! 苦しい……」

どっちだかわからない。死ぬようなさわぎです。

どこへ落ちるか不知火銭。

誰に当たるか不知火小町のお墨つき――。

見わたす限り人間の手があがって、掴もうとする指が、まるでさざなみのように、ひらいたりとじたりするぐあい、じっと見てると、ちょうど穂薄の野を秋風が渡るよう……壮観だ。

「お侍さまっ! どうぞこっちへお撒きくださいっ」

と、女の声。かと思うと、

「旦那! あっしのほうへ願います。あっしゃアまだ三つしか拾わねえ」

あちこちから呶声がとんで、

「三つしか拾わぬとは、なんだ。拙者はまだ一つもありつかぬ」

「この野郎、三つも掴みやがって、当分不知火銭で食う気でいやアがる」

中には、お婆さんなんか、両手に手ぬぐいをひろげて、あたまの上に張っているうちに、人波に溺れて群衆の足の間から、

「助けてくれッ!」

という始末。おんなの悲鳴、子供の泣き声……中におおぜいの武士がまじっているのは、武士は食わねど高楊枝などとは言わせない、皮肉な光景で。