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たんげさぜん

丹下左膳

林 不忘

Read 丹下左膳 (たんげさぜん) by 林 不忘 (はやしふぼう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 241,861 characters · 480 screens

Aozora Bunko

二

いい客と見て、これがまァお愛想。特別サービス。

ギシギシ揺れて、最大急行でスッとんでゆく駕籠のなかで、眼をつぶり、腕をこまぬいた脇本門之丞、心中に考えている。

「あの森かげの小藪に、玄心斎のおやじと大八めを、スッポかしてすりぬけて来たのだが、今ごろはこのおれを探して、さぞ立い騒いでいるだろうなア」

たちまちその心の眼に浮かんでくるのは、あの、命も何もいらぬと思うほど恋しい、萩乃さまのおもかげ……。

妻恋坂――妻恋坂、この名は、門之丞にとって、ゆかりのないものとは思われなかった。

駕籠はそのつまこい坂をさして、一散に……。

二

いま、はるか彼方の縁の雨戸に、コトリと、外から人でもさわるような物音がして、萩乃は、びくっと首をあげた。

眉をよせて、遠くを聴く顔。

その、艶にうつくしいほおに、遠山の霞をえがいた朱骨絹ぼんぼりの灯が、チロチロと、夢のように這っています。

片側の襖は、これはちとこの部屋に似つかわしからぬ、荒磯に怒濤のくだける景で、これにはすこしわけがある。いくら女でも、剣家の娘だから、常住、雄渾豪快な気を養わねばならぬといって、亡き父十方斎が、当時名ある画家に委嘱して、この会心の筆をふるってもらったもの。