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たんげさぜん
丹下左膳
林 不忘
Read 丹下左膳 (たんげさぜん) by 林 不忘 (はやしふぼう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 241,861 characters · 480 screens
文殊の智恵
一
先生の背中は、四畳半もあらア」
それじゃアまるで鯨だ。
「余の者がこすったんじゃア、蠅がすべってるほどにも感じねえというんで、こちとら真っ赤になってフウフウいって流すんだが、イヤまったく巌みてえなからだだよ」
「へええ、頭の力でも、そうですかねえ。なんだそうでげすナ。小さな長屋の柱のまがったのなんざあ、あの泰軒先生が一つ腰を入れて、グンと押すと、しゃっきり立てなおるってえじゃアげえせんか。いや、なんにしても、えらい御仁があったものだ」
「この長屋の王様だあね。いやもう、とんがり長屋の名物どころじゃアねえ。とんがり長屋の泰軒さまといえア、江戸の名物だ。モウ、とんがり長屋てえのを、泰軒長屋とかえてもいいや」
「泰軒長屋か。ほんとだ。何か事がありゃア、あの先生を押し出しゃあ即座にピタと鎮まろうてもんだから、豪気なもんよなあ」
「いっそ心強えや。オウ、みんな、泰軒様を大事にしなくっちアいけねえぜ」
うす陽の街上に、小さな旋風が起こって、かわいた馬糞の粉が、キリキリと縒り糸のようにまっすぐに、家の庇ほども高く舞い立っています。
ここは、あさくさ竜泉寺町、とんがり長屋の路地口。