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たんげさぜん
丹下左膳
林 不忘
Read 丹下左膳 (たんげさぜん) by 林 不忘 (はやしふぼう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 241,861 characters · 480 screens
発願奇特帳
一
「きばったもんだナ。曾我大膳介殿は?」
そろばんがだまって答える。
「ふたつ半。きざみやがったナ」
そんな下品なことは言いません。
「記けておるであろうな」
と主水正は、かたわらの用人をかえりみた。
そばに帳面方がひかえて、そろばんに現われる数字を、いちいち帳簿に記入している。
一、秋元淡路守――三つ半、および鮮魚一盥。
一、藤田堅物――三つ、および生絹五反。
一、伊達どの――五つ、および仙台味噌十荷。
一、別所信濃守――二つ。
一、大滝壱岐守――三つ、および縮緬十匹、酒五駄。
一、曾我大膳介――二つ半。
こういう名前と、数字と、品物とが、横とじの帳面に無数につづいている。
麻布林念寺前、伊賀藩柳生対馬守のお上屋敷。
その奥庭の離室だ。午下りのうららかな陽が、しめきった障子に木のかげをまばらにうつして、そよ風に乗ってくる梅の香。
どこかに、笹啼きのうぐいすが聞こえる。
藩侯柳生対馬守は、まだお国もと柳生の庄にいる。江戸のほうを一手にきりもりしているのは、この田丸主水正老人である。
いまこの室内に、人を遠ざけて何ごとか秘密の帳合いをしているのは、その主水正と、そろばん係が一人、記入方がひとり、三人きりだ。