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たんげさぜん

丹下左膳

林 不忘

Read 丹下左膳 (たんげさぜん) by 林 不忘 (はやしふぼう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 241,861 characters · 480 screens

Aozora Bunko

もう、一番鶏のなくころでしょう。鶏がなく前に出ていかなければ、ほんとうに大声をたてて人を呼びますよ」

若い娘の萩乃様の口から、こんなしっかりした言葉を聞こうとは門之丞、思わなかった。違算です。備わる貫祿に圧迫されて、彼は手も足も出ない。

手をかえた門之丞、声をひそめて、

「源三郎は、今ごろはもはや亡き者……だが、この儀については、多くを言いますまい。夜が明けたら、客人大権現の寮の、お蓮様と丹波のもとからしらせがあって、何ごとも分明いたすはず。それよりも萩乃さま、拙者はあなたに、ある一つの壺を献上いたそうと存ずるが、御嘉納くださるでしょうな?」

萩乃は、いぶかしげに、小首をかしげて、

「壺とはえ?」

「は。源三郎殿が、伊賀より持ちきたったる――」

「あらっ! いま皆が大さわぎをしている、こけ猿とやらいう……」

「サ! そのこけ猿です!」

門之丞眼を光らして、

「丹波が、かの橋下の掘立小屋より、破れ鍋をかわりに置いて盗みださせたのを、拙者がまた、それと寸分違わぬ箱やら風呂敷を、ひそかにととのえて、この道場にある間にそっとすりかえたのです。それとも知らず丹波の一味は、あの、私の作った偽物の箱包みを、後生大事に持っていって、いま寮に、虎の子のようにしまいこんであるでしょうが、はッはッは――ただいま、お眼にかけます」