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しんらん
親鸞
吉川 英治
Read 親鸞 (しんらん) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 566,138 characters · 1127 screens
陽はいつか山の端にかくれて、冷たい気が白々と降りてくる。衣の袖は湿っぽく濡れ、はなればなれになった人数は、おのおの道に迷って、おおウいと仲間を呼んでも、谺のほかの答えはしなかった。
「弁円殿っ。――播磨公殿っ」
声では返事がないので、そうしきりに呼んでいた一人の山伏は、岩の上から法螺貝をふいた。――大きく二度、三度、四度と。
(何事やある)
(さては、親鸞を)と山伏は方々から再び峠の一ヵ所に群れ集まった。その中には、眉間に青白い焦躁を刻んでいる弁円の顔もあった。
「なんだ、相模坊」
「残念です」
「どうしたと」
「ただ今、麓からの報らせです。親鸞と生信房のふたりは、もう疾くに、稲田の庵室へ立ち帰って、弟子どもや妻子と和やかに笑いさざめいているとのこと。……いったいここや谷道の幾重もの柵は、何に備えていたのでござるか」
「げッ、親鸞は、もう稲田へ帰っていると……そ、それは真か」弁円は、信じられないような顔をしていった。
六
疑っても疑いようのない事実が、麓から弁円の前へ、次々に注進された。
どうして、水も漏らさぬこの備えを潜り抜けたか、この板敷山の嶮を無難に通って行ったか?