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しんらん
親鸞
吉川 英治
Read 親鸞 (しんらん) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 566,138 characters · 1127 screens
二
帰依する上人に対して。また、愛しいわが娘の聟――善信に対して。
「……何たること!」老いの唇を噛みしめ、
「わしの身で代われるものなら」めったに嘆いたり狼狽えたりしない彼が、
「いても立ってもおられぬ――」とさえ口走って、幾日かを、物狂わしげに悲しまれていたという町の人々のうわさも、決して、誇張ではなかったろう。
そしていよいよ宣下の日になると、彼は、老いの身を牛車に託して、
「吉水へ」と、命じた。
吉水へ――これが最後の彼の運びであった。――光明の道、易行往生の信をもって通った道を、どうして、暗澹たる悲嘆の泥濘として踏まなければならないか、禅閤は、
「……死にたい、もう、人の世がいやになった」牛車の内で、つぶやいていた。
――来てみれば、ああと、禅閤は思わず太い息をもらした。なんたる変りようだろう、これが昔日の念仏の声にみちたあの吉水のお住居だろうか。
「…………」禅閤は、しばらく、牛車のすだれを垂れ籠めたまま泣いていた。従僕が、
「着きましてございますが」とうながしても、降りようとしなかった。
門のあたりは、焚火のあとを蹴散らした燃えさしの薪だの、警固の武士がぬぎすてた切れた草鞋だの、馬の糞だの、狼藉を極めた光景だった。