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しんらん
親鸞
吉川 英治
Read 親鸞 (しんらん) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 566,138 characters · 1127 screens
九
その、無窮にして無限の時の流れから見ると、人の一生などは、電光のような瞬間です。その瞬間に、こうして、同じ時代に生れ合ったというだけでも、実に奇しき縁と申さねばならぬ。いわんや、同じ国土に生れ、同じ日のもとに、知る辺となり、友となり、親となり、子となり、また、夫婦となるということは、よくよくふかい宿命です。……だのに、そのまたと、去っては会い難い機縁の者同士が、憎みあい、呪いあい、罵りあうなどということは、あまりにも、口惜しいことではないか。――見るがよい、こう話している間も、水は無窮に流れて、流れた水は、ふたたびこの宇治の山河に、会いはしない……」
九
「わかりました」若い夫婦は、しみじみと、範宴のことばを心に沁み入れてうなずいた。
渡船が出る。範宴は、性善坊と一緒に、舷へ立った。
狭霧が霽れてきた。箭四老人は、幾たびも、
「和子様――おからだをお大切に――ご修行を遊ばしませ」彼にはまだ、範宴が、昔の十八公麿のように稚く見えてならなかった。今も、和子様と、呼ぶのであった。
「爺も、無事に」と、範宴が答えると、
「おさらばでございます」萱乃と国助が、うるんだ眼をして、じっと見送る。