Read classic Japanese books with furigana
ja-reading.com
Read classic Japanese books online with furigana. Filter by JLPT level, tap a word for the meaning, and translate a sentence.
しんらん
親鸞
吉川 英治
Read 親鸞 (しんらん) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 566,138 characters · 1127 screens
有閑宮
一
有閑宮
一
その年の十一月であった。
仙洞の後鳥羽院は、熊野詣でを仰せ出されて、紀伊路へ行幸された。
降るか降らないかのような時雨が道を濡らしていたが、鳳輦が御所を出るころには、冬陽が射し、虹の立ちそうな美しい鹿島立ちになった。
洛内は、行幸を拝む人々で、どこもかしこも人の列であった。
若い娘、若い男たちは、
「一日でも、あんな鳳輦に侍いてみたら」と、雲上の生活に、あこがれと諦めをもって、自分たち庶民の宿命を、その後でさびしく眺め合った。
上皇が、お留守になると仙洞御所は、大きな空虚を抱いて、
「ああ、これで」ほっとしたり、
「御用なしで、明日から、何をしたものか」
と、女官たちは四、五日すると退屈と淋しさを持てあました。
投扇興、すごろく、和歌合せ、といったような遊戯にも、すぐ飽いてしまうし、誰や彼の、垣間見の男性たちのうわさも、ままにならない身がかえって苦しくなるだけで、恋をするには、盗賊以上の勇気がいる。
それでも、深夜になると、局のどこかに、男性のにおいがするのだった。越えられそうもない高い塀の下に、男の沓が落ちている朝もある。
はなはだしいことには、上皇のお留守を見込んでであろうが、どこの公達どもか、四、五人ほど党を組んで来て、局のうちから、眉目のよい女官を攫って逃げ去ったという椿事まであった。