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しんらん
親鸞
吉川 英治
Read 親鸞 (しんらん) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 566,138 characters · 1127 screens
事実、六波羅殿の栄耀も、小松殿の豪華も、この草間がくれの夫婦の生活にくらべれば、その平和さにおいて、幸福さにおいて、遥かに、およばなかったに違いない。
雁がわたる――秋は深み行く。仲秋の夜だった。
「兄上、ちとばかり、酒瓶に美酒さげて参りました」宗業が訪れた。
やがて、範綱も見える。十五夜ではあり、こう三名の兄弟がそろうと、ぜひとも、一献なければなるまい。吉光の前は、高坏や、膳のものを用意させて、自分も十八公麿を抱いて、円かな月見の席につらなっている。
わざと、燭は燈さずにある。すすきの穂の影が、縁や、そこここにうごいている。廂から射し入る月は燈火よりは遥かに明るかった。
杯のめぐるままに、人々の顔には微醺がただよう。――詩の話、和歌の朗詠、興に入って尽きないのである。と、思い出したように、
「そうそう」吉光の前へ向って、宗業がいった。
「六波羅の探題から、なんぞ、お許様へ、やかましい詮議だては、ありませんでしたか」
「いいえ……」吉光の前は、顔を横に振って、
「べつに、六波羅役人から、さようなことは申して参りませんが? ……何ぞそのような噂でもあるのでございまするか」