Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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みやもとむさし

宮本武蔵(一)

吉川 英治

Lesen Sie 宮本武蔵(一) (みやもとむさし) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 231.525 Zeichen · 463 Bildschirme

Aozora Bunko

「私より、あなたは」

「俺は……」

武蔵は、考えてから、

「――俺は生きている!」

「生きていますとも」

「それだけしか分らないんだ」

「逃げましょう! 一刻も早く。……もし人に見つかったら、私もあなたも、今度こそは、生命がありません」

お通は、跛行をひきながら歩き出した。武蔵も歩いた。――黙々と、遅々と、秋の霜を、片輪の虫が歩むように。

「ご覧なさい、播磨灘の方が、ほんのり夜が白みかけました」

「ここは何処」

「中山峠。……もう頂上です」

「そんなに歩いて来たかなあ」

「一心は怖いものですね。そうそう、あなたは、まる二日二晩、何も食べていないでしょう」

そういわれて、武蔵は初めて飢渇を思い出した。

背に負っている包みを解いて、お通は、米の粉を練った餅を出した。甘い餡が舌から喉へ落ちてゆくと、武蔵は、生のよろこびに、餅を持っている指が顫えて、

(俺は生きたぞ)

と、つよく思い、同時に、

(これから生れ変るのだ!)

と、信念した。

紅い朝雲が、二人の顔を焼いた。お通の顔が鮮やかに見えてくると、武蔵は、ここに彼女と二人でいることが夢のようで、どうしても不思議な気がしてならない――