Japanische Klassiker mit Furigana
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みやもとむさし
宮本武蔵(一)
吉川 英治
Lesen Sie 宮本武蔵(一) (みやもとむさし) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 231.525 Zeichen · 463 Bildschirme
八
林をぬけると低い丘があって、山づたいに月ヶ瀬から伊賀へゆける裏道になっていた。
「あっ、ほんとだ」
そこの丘の道に立つと、城太郎の眼にも武蔵の姿が明らかに映った。けれどそれはもう声も届かない距離の彼方にであった。後も見ずに遠くを駈けてゆく人影だった。
八
「あっ、彼方に――」
二人は駈けた。呼んだ。
足のかぎりに、声のかぎりに。
泣き声をふくんだ二人のさけびが、丘を降り、野を駈け、山ふところの谷間まで駈けて、木魂を呼びたてる。
だが、遠く小さく見えていた武蔵の影は、そこの山ふところに駈け入ったままもうどこにも見あたらなかった。
漠々として白雲はふかい。淙々として渓水の音は空しい。母親の乳ぶさから打ち捨てられた嬰児のように、城太郎は地だんだを踏んで泣きわめいた。
「ばか野郎っ、お師匠さんの大馬鹿。おらを捨てて……おらをこんなところへ捨てて……やいっ、ちくしょうっ、どこへ行っちまやがったんだ」
お通はまたお通で、彼とはべつに、大きな胡桃の木に喘ぐ胸をもたせかけて、ただ、しゅくしゅくと泣きじゃくっている。
これほどに一生を投げやっている自分の気持も、まだあの人の足を止めるには足らないのであろうか。