Japanische Klassiker mit Furigana
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きどうむかしがたり
綺堂むかし語り
岡本 綺堂
Lesen Sie 綺堂むかし語り (きどうむかしがたり) von 岡本 綺堂 (おかもときどう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 183.656 Zeichen · 363 Bildschirme
これもそれと似寄りの話で、やはり十七年の秋と思う。わたしが、父と一緒に四谷へ納涼ながら散歩にゆくと、秋の初めの涼しい夜で、四谷伝馬町の通りには幾軒の露店が出ていた。そのあいだに筵を敷いて大道に坐っている一人の男が、半紙を前に置いて頻りに字を書いていた。今日では大道で字を書いていても、銭を呉れる人は多くあるまいと思うが、その頃には通りがかりの人がその字を眺めて幾許かの銭を置いて行ったものである。
わたしらも其の前に差しかかると、うす暗いカンテラの灯影にその男の顔を透かして視た父は、一間ばかり行き過ぎてから私に二十銭紙幣を渡して、これをあの人にやって来いと命じ、かつ遣ったらば直ぐに駈けて来いと注意された。乞食同様の男に二十銭はちっと多過ぎると思ったが、云わるるままに札を掴んでその店先へ駈けて行き、男の前に置くや否や一散に駈け出した。これに就いては、父はなんにも語らなかったが、おそらく前のおでん屋と同じ運命の人であったろう。
この男を見た時に、「霜夜鐘」の芝居に出る六浦正三郎というのはこんな人だろうと思った。その時に彼は半紙に向って「……茶立虫」と書いていた。