Japanische Klassiker mit Furigana
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きどうむかしがたり
綺堂むかし語り
岡本 綺堂
Lesen Sie 綺堂むかし語り (きどうむかしがたり) von 岡本 綺堂 (おかもときどう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 183.656 Zeichen · 363 Bildschirme
春の修善寺
わたしの宿のうしろに寄席があって、これも同じ主人の所有である。草履ばきの浴客が二、三人はいってゆく。私も続いてはいろうかと思ったが、ビラをみると、一流うかれ節三河屋何某一座、これには少しく恐れをなして躊躇していると、雨がはらはらと降って来た。仰げば塔の峰の頂上から、蝦蟆のような黒雲が這い出している。いよいよ恐れて早々に宿に逃げ帰った。
帰って机にむかえば、下の離れ座敷でもまたもや義太夫が始まった。近所の宿でも三味線の音がきこえる。今夜はひどく賑やかな晩である。
十時入浴して座敷に帰ると、桂川も溢れるかと思うような大雨となった。(掲載誌不詳、『十番随筆』所収)
春の修善寺
十年ぶりで三島駅から大仁行きの汽車に乗り換えたのは、午後四時をすこし過ぎた頃であった。大場駅附近を過ぎると、此処らももう院線の工事に着手しているらしく、路ばたの空地に投げ出された鉄材や木材が凍ったような色をして、春のゆう日にうす白く染められている。村里のところどころに寒そうに顫えている小さい竹藪は、折りからの強い西風にふき煽られて、今にも折れるかとばかりに撓みながら鳴っている。広い桑畑には時どき小さい旋風をまき起して、黄龍のような砂の渦が汽車を目がけてまっしぐらに襲って来る。