Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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きどうむかしがたり

綺堂むかし語り

岡本 綺堂

Lesen Sie 綺堂むかし語り (きどうむかしがたり) von 岡本 綺堂 (おかもときどう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 183.656 Zeichen · 363 Bildschirme

Aozora Bunko

(下)

坂路はよほど急になって、仰げば高い窟の上に一本の大きな杉の木が見えました。これが中の嶽の一本杉と云うので、われわれは既に第二の金洞山に踏み入っていたのです。金洞山は普通に中の嶽と云うそうです。ここから第三の金山は真正面に見えるのだそうですが、この時に霧はいよいよ深くなって来て、正面の山どころか、自分が今立っている所の一本杉の大樹さえも、半分から上は消えるように隠れてしまって、枝をひろげた梢は雲に駕る妖怪のように、不思議な形をしてただ朦朧と宙に泛かんでいるばかりです。峰も谷も森も、もうなんにも見えなくなってしまいました。「山あひの霧はさながら海に似て」という古人の歌に嘘はありません。しかも浪かと誤まる松風の声は聞えませんでした。山の中は気味の悪いほどに静まり返って、ただ遠い谷底で水の音がひびくばかりです。ここでも鶯の声をときどきに聞きました。

(下)

一本杉の下には金洞舎という家があります。この山の所有者の住居で、かたわら登山者の休憩所に充ててあるのです。二人はここの縁台を仮りて弁当をつかいました。弁当は菱屋で拵えてくれたもので、山女の塩辛く煮たのと、玉子焼と蓮根と奈良漬の胡瓜とを菜にして、腹のすいているわたしは、折詰の飯をひと粒も残さずに食ってしまいました。