Japanische Klassiker mit Furigana
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きどうむかしがたり
綺堂むかし語り
岡本 綺堂
Lesen Sie 綺堂むかし語り (きどうむかしがたり) von 岡本 綺堂 (おかもときどう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 183.656 Zeichen · 363 Bildschirme
蓑笠の人が桑を荷って忙がしそうに通る、馬が桑を重そうに積んでゆく。その桑は莚につつんであるが、柔らかそうな青い葉は茹でられたようにぐったりと湿れている。私はいよいよ痛切に「どうも困ります」を感じずにはいられなくなった。そうして、鉛のような雨雲を無限に送り出して来る、いわゆる「上毛の三名山」なるものを呪わしく思うようになった。
磯部には桜が多い。磯部桜といえば上州の一つの名所になっていて、春は長野や高崎、前橋から見物に来る人が多いと、土地の人は誇っている。なるほど停車場に着くと直ぐに桜の多いのが誰の眼にもはいる。路ばたにも人家の庭にも、公園にも丘にも、桜の古木が枝をかわして繁っている。磯部の若葉はすべて桜若葉であると云ってもいい。雪で作ったような向い翅の鳩の群れがたくさんに飛んで来ると、湯の町を一ぱいに掩っている若葉の光りが生きたように青く輝いて来る。ごむほおずきを吹くような蛙の声が四方に起ると、若葉の色が愁うるように青黒く陰って来る。
晴れの使いとして鳩の群れが桜の若葉をくぐって飛んで来る日には、例の「どうも困ります」が、暫く取り払われるのである。