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Japanische Klassiker mit Furigana

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きどうむかしがたり

綺堂むかし語り

岡本 綺堂

Lesen Sie 綺堂むかし語り (きどうむかしがたり) von 岡本 綺堂 (おかもときどう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 183.656 Zeichen · 363 Bildschirme

Aozora Bunko

めの字を書いた額も見える。千社札も貼ってある。右には桜若葉の小高い崖をめぐらしているが、境内はさのみ広くもないので、堂の前の一段低いところにある家々の軒は、すぐ眼の下に連なって見える。わたしは時にここへ散歩に行ったが、いつも朝が早いので、参詣らしい人の影を認めたことはなかった。

それでもたった一度若い娘が拝んでいるのを見たことがある。娘は十七、八らしい。髪は油気の薄い銀杏がえしに結って、紺飛白の単衣に紅い帯を締めていた。その風体はこの丘の下にある鉱泉会社のサイダー製造にかよっている女工らしく思われた。色は少し黒いが容貌は決して醜い方ではなかった。娘は湿れた番傘を小脇に抱えたままで、堂の前に久しくひざまずいていた。細かい雨は頭の上の若葉から漏れて、娘のそそけた鬢に白い雫を宿しているのも何だか酷たらしい姿であった。わたしは暫く立っていたが、娘は容易に動きそうもなかった。

堂と真向いの家はもう起きていた。家の軒には桑籠がたくさん積まれて、若い女房が蚕棚の前に襷がけで働いていた。若い娘は何を祈っているのか知らない。若い人妻は生活に忙がしそうであった。

どこかで蛙が鳴き出したかと思うと、雨はさアさアと降って来た。