Japanische Klassiker mit Furigana
ja-reading.com
Lesen Sie japanische Klassiker online mit Furigana. Filtern Sie nach JLPT-Niveau, tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung und übersetzen Sie einen Satz.
きどうむかしがたり
綺堂むかし語り
岡本 綺堂
Lesen Sie 綺堂むかし語り (きどうむかしがたり) von 岡本 綺堂 (おかもときどう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 183.656 Zeichen · 363 Bildschirme
立木はほとんどみえない。眼のとどく限りは雛芥子の花に占領されて、血を流したように一面に紅い。原に沿うた長い路をゆき抜けると、路はだんだんに登り坂になって、石の多い丘の裾についた。案内者はここが百八高地というのであると教えてくれた。
自動車から卸されて、思い思いに丘の方へ登ってゆくと、そこには絵葉書や果物などを売る店が出ている。ここへ来る見物人を相手の商売らしい。同情も幾分か手伝って、どの人も余り廉くない絵葉書や果物を買った。
丘の上にも塹壕がおびただしく続いていて、そこらにも鉄条網や砲弾の破片が見いだされた。丘の上にも立木はない。石の間にはやはり雛芥子が一面に咲いている。戦争が始まってから四年の間、芥子の花は夏ごとに紅く咲いていたのであろう。敵も味方もこの花を友として、苦しい塹壕生活をつづけていたのであろう。そうして、この優しい花を見て故郷の妻子を思い出したのもあろう。この花よりも紅い血を流して死んだのもあろう。ある者は生き、ある者はほろび、ある者は勝ち、ある者は敗れても、花は知らぬ顔をして今年の夏も咲いている。
これに対して、ある者を傷み、ある者を呪うべきではない。