Japanische Klassiker mit Furigana
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きどうむかしがたり
綺堂むかし語り
岡本 綺堂
Lesen Sie 綺堂むかし語り (きどうむかしがたり) von 岡本 綺堂 (おかもときどう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 183.656 Zeichen · 363 Bildschirme
背山の家には簾がおろされてあったが、腰元のひとりが小石に封じ文をむすび付けて打ち込んだ水の音におどろかされて、簾がしずかに巻きあげられると、そこにはむらさきの小袖に茶宇の袴をつけた美少年が殊勝げに経巻を読誦している。高島屋ァとよぶ声がしきりに聞える。美少年は市川左団次の久我之助である。
姫は太宰の息女雛鳥で、中村福助である。雛鳥が恋びとのすがたを見つけて庭に降りたつと、これには新駒屋ァとよぶ声がしきりに浴びせかけられたが、かれの姫はめずらしくない。左団次が前髪立ちの少年に扮して、しかも水のしたたるように美しいというのが観客の眼を奪ったらしい。少年の父も唸るような吐息を洩らしながら眺めていると、舞台の上の色や形はさまざまの美しい錦絵をひろげてゆく。
背山の方は大判司清澄――チョボの太夫の力強い声によび出されて、仮花道にあらわれたのは織物のをきた立派な老人である。これこそほんとうに昔の錦絵から抜け出して来たかと思われるような、いかにも役者らしい彼の顔、いかにも型に嵌ったような彼の姿、それは中村芝翫である。同時に、本花道からしずかにあゆみ出た切り髪の女は太宰の後室定高で、眼の大きい、顔の輪郭のはっきりして、一種の気品をそなえた男まさりの女、それは市川団十郎である。