Japanische Klassiker mit Furigana
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きどうむかしがたり
綺堂むかし語り
岡本 綺堂
Lesen Sie 綺堂むかし語り (きどうむかしがたり) von 岡本 綺堂 (おかもときどう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 183.656 Zeichen · 363 Bildschirme
私の記憶に残っている女主人のおてつは、もう四十くらいであったらしい。眉を落して歯を染めた、小作りの年増であった。聟を貰ったがまた別れたとかいうことで、十一、二の男の児を持っていた。美しい娘も老いておもかげが変ったのであろう、私の稚い眼には格別の美人とも見えなかった。店の入口には小さい庭があって、飛び石伝いに奥へはいるようになっていた。門のきわには高い八つ手が栽えてあって、その葉かげに腰をかがめておてつが毎朝入口を掃いているのを見た。汁粉と牡丹餅とを売っているのであるが、私の知っている頃には店もさびれて、汁粉も牡丹餅も余り旨くはなかったらしい。近所ではあったが、わたしは滅多に食いに行ったことはなかった。
おてつ牡丹餅の跡へは、万屋という酒屋が移って来て、家屋も全部新築して今日まで繁昌している。おてつ親子は麻布の方へ引っ越したとか聞いているが、その後の消息は絶えてしまった。
わたしの貰った茶碗はそのおてつの形見である。O君の阿父さんは近所に住んでいて、昔からおてつの家とは懇意にしていた。維新の当時、おてつ牡丹餅は一時閉店するつもりで、その形見と云ったような心持で、店の土瓶や茶碗などを知己の人々に分配した。