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Japanische Klassiker mit Furigana

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きどうむかしがたり

綺堂むかし語り

岡本 綺堂

Lesen Sie 綺堂むかし語り (きどうむかしがたり) von 岡本 綺堂 (おかもときどう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 183.656 Zeichen · 363 Bildschirme

Aozora Bunko

病中わたしに取って更に不幸というべきは、この夜半の馬力が暑いあいだ最も多く通行することである。なんでも多摩川のあたりから水蜜桃や梨などの果物の籠を満載して、神田の青物市場へ送って行くので、この時刻に積荷を運び込むと、あたかも朝市に間に合うのだそうである。その馬力が五台、七台、ないし十余台もつながって行くのは、途中で奪われない用心であると云う。いずれにしても、それが此の頃のわたしを悩ますことはひと通りでない。

「これほどに私を苦しめて行くあの果物が、どこの食卓を賑わして、誰の口にはいるか。」

私は寝ながらそんなことを考えた。それに付けて思い出されるのは、わたしが巴里に滞在していた頃、夏のあかつきの深い靄が一面にとざしている大きい並木の街に、馬の鈴の音がシャンシャン聞える。靄に隠されて、馬も人も車もみえない。ただ鈴の音が遠く近くきこえるばかりである。それは近在から野菜や果物を送って来る車で、このごろは桜ん坊が最も多いということであった。その以来わたしは桜ん坊を食うたびに、並木の靄のうちに聞える鈴の音を思い出して、一種の詩情の湧いて来るのを禁じることが出来ない。