Japanische Klassiker mit Furigana
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きどうむかしがたり
綺堂むかし語り
岡本 綺堂
Lesen Sie 綺堂むかし語り (きどうむかしがたり) von 岡本 綺堂 (おかもときどう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 183.656 Zeichen · 363 Bildschirme
右にも左にも灯のひかりの無い堀端で、女の着物の染め模様などが判ろう筈がない。幽霊か妖怪か、いずれ唯者ではあるまいと私は思った。暗い中で姿の見えるものは妖怪であるという古来の伝説が、わたしを強くおびやかしたのである。
まさかにきゃっと叫んで逃げる程でもなかったが、わたしは再び振り返る勇気もなく、ただ真っ直ぐに足を早めてゆくと、女もわたしを追うように付いて来る。女の癖になかなか足がはやい。そうなると、私はいよいよ気味が悪くなった。江戸時代には三宅坂下の堀に河獺が棲んでいて、往来の人を嚇したなどという伝説がある。そんなことも今更に思い出されて、わたしはひどく臆病になった。
この場合、唯一の救いは桜田門外の派出所である。そこまで行き着けば灯の光があるから、私のあとを付けて来る怪しい女の正体も、ありありと照らし出されるに相違ない。私はいよいよ急いで派出所の前までたどり着いた。ここで大胆に再び振り返ると、女の顔は傘にかくされてやはり見えないが、その着物は確かに白地で、桔梗の中形にも見誤まりはなかった。彼女は痩形の若い女であるらしかった。
正体は見届けたが、不安はまだ消えない。