Japanische Klassiker mit Furigana
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きどうむかしがたり
綺堂むかし語り
岡本 綺堂
Lesen Sie 綺堂むかし語り (きどうむかしがたり) von 岡本 綺堂 (おかもときどう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 183.656 Zeichen · 363 Bildschirme
周囲が穢なければ穢ないほど、花の涼しげなのがいよいよ眼立ってみえる。いつの頃に誰がかんがえ出したのか知らないが、おそらく遠い江戸の昔、うら長屋の奥にも無名の詩人が住んでいて、かかる風流を諸人に教え伝えたのであろう。
虫の声、それを村園や郊外の庭に聴く時、たしかに幽寂の感をひくが、それが一つならず、二つならず、無数の秋虫一度にみだれ咽んで、いわゆる「虫声満レ地」とか「虫声如レ雨」とかいう境に至ると、身にしみるような涼しさは掻き消されてしまう憾みがある。むしろ白日炎天に汗をふきながら下町の横町を通った時、どこかの窓の虫籠できりぎりすの声がひと声、ふた声、土用のうちの日盛りにも秋をおぼえしめるのは、まさにこの声ではあるまいか。
秋虫一度にみだれ鳴くのは却って涼味を消すものであると、私は前に云った。しかもその騒がしい虫の声を市中の虫売りの家台のうちに聴く場合には、まったくその趣を異にするのである。夜涼をたずねる市中の人は、往来の少ない幽暗の地を選ばないで、却って燈火のあかるい雑沓の巷へ迷ってゆく。そこにはさまざまの露店が押し合って列んでいる。人もまた押し合って通る。