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さぶ
さぶ
山本 周五郎
「週刊朝日」 1963(昭和38)年1月4日号~7月5日号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 210,521 字 · 415 页
五の三
これが事実なんだ、と彼は思った。すると、怒りがまたつきあげてきた。
栄二はあたりを見まわした。三方が板壁、廊下に面した方が牢格子になっている。つきあげてくる怒りでめまいがしそうになり、そのがっちりとした牢格子が、遠のいたり近よったりするように見えた。
「ちくしょう」栄二は劈くように叫ぶと、急に立ちあがった、「おれをここから出せ」
彼は牢格子へ激しく躰当りをくれた。肉や骨にするどい痛みを感じたが、狂ったように二度、三度と躯を叩きつけ、両手で牢格子を力の限りゆすぶった。
「おれを出しゃあがれ」と彼は叫び続けた、「きさまたち一人残らず叩っ殺してくれるぞ」
五の三
栄二は仮牢に七日いたあと、石川島の「人足寄場」へ送られた。又左衛門は自分で吟味をし、いろいろと親切にふるまった。町廻り与力の青木功之進は自分の一族であるとか、功之進といっしょに本町の番小屋へいったのは、同心の安井友右衛門と下役の岡村次兵衛という者で、三人とも栄二に同情しているなどと、さりげない世間ばなしのように云い、間違いのもとはなにかと、穏やかに繰返した。栄二は又左衛門に対しても沈黙を守った。仮牢で暴れたとき、右足の拇指の爪を剥がし、手当てをされて晒木綿で巻いてある。