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さぶ

さぶ

山本 周五郎

「週刊朝日」 1963(昭和38)年1月4日号~7月5日号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 210,521 字 · 415 页

青空文庫

八の三

おすえは怯えたように栄二を見た。

「ここを出たらな」と栄二は囁いた、「綿文にも、い組の頭や若い者にも、目明しの太田屋と子分の島造にも、一生涯わすれることのできねえような思いをさせてやる、きっとだ、この首に賭けてもやってやるぜ」

おすえは両手で顔を押え、声をころして咽びあげながら、とぎれとぎれにきいた、「――じゃあ、あたしはどうなるの、栄さん」

八の三

「おれのことなら諦めてくれ」と栄二は顔をそむけて云った、「おらあおめえを初めて見たときから好きだった、そして、女房を貰うならおめえだと、独りで心にきめていた」

さぶちゃんから聞いたわ、とおすえは口の中で呟いた。

「だから金や荷物を預かってもらったんだ、あのときはまだおめえといっしょになって、小さな経師屋でもやるつもりだった」栄二は吐きけでもこみあげてきたように、するどく眉と口を歪めた、「――だがもういけねえ、なにもかもご破算だ、この島から出たらおれがなにをするかは、いま云ったとおりだ、おれはまえの栄二じゃあねえ、おめえともさぶとも縁のねえ人間なんだ」

「そうきめないで、栄さん」嗚咽しながらおすえはかぶりを振った、「そんなふうにきめてしまわないでよ」