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さぶ

さぶ

山本 周五郎

「週刊朝日」 1963(昭和38)年1月4日号~7月5日号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 210,521 字 · 415 页

青空文庫

四の三

「おれも本町に用があるんだ」

栄二は起きあがろうとし、おのぶはそれを押えつけた。

「おれにさわるな」と栄二が云った、「おれの躯は元のままじゃあねえ、泥みてえにけがれちまったんだ、おらあもうだめな人間だ」

四の三

栄二がもう起きるようすのないことを認めてから、おのぶは小座敷を出てゆき、掻巻を持って戻ると、栄二の躯へそっと掛けてやった。

「のぶ公か」栄二は眼をあいていた、「迷惑をかけて済まなかったな」

「栄さんがこんなになるなんて、嫌いよ」

「だろうとも、てめえでもてめえが嫌いになった、勘弁してくれ」

「いったいどうしたっていうの、十五日の日に酔っぱらって、また来ると云って出てったっきり、からっ風に飛ばされた枯葉みたいに音沙汰なし、そのあげくさぶちゃんに背負われて来るなんて、あんまりだらしがないじゃないの、しっかりしてよ」

「もっとやっつけてくれ」栄二は眼をつむりながら云った、「なんとでも云ってくれ、おれあ褒められようとは思っちゃいねえんだから」

「眠んなさいよ、眠ってさめてっから話を聞くわ」

「眠れるもんか、こんな、――よせったら、のぶ公、おれの躯は本当に泥まみれなんだ、側へ寄っちゃあいけねえんだよ」