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さぶ

さぶ

山本 周五郎

「週刊朝日」 1963(昭和38)年1月4日号~7月5日号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 210,521 字 · 415 页

青空文庫

五の二

彼は綿文の人間を呪い、頭たち三人を呪った。怒り以外にはなにも考えることができず、くやしさのために、幾たびも吐きけにおそわれた。

「おい、若いの」と番太の老人が栄二の肩をゆすった、「ちょいと起きな、起きて顔を拭くがいい、そら」

老人は湯で絞った手拭を、栄二の手に握らせた。

「頭も着物も濡れて泥だらけだ、起きられたらあっちの火の側へ来な、焚火にあたればすぐに乾くだろうから」

「火をつけてやる」栄二は渡された手拭をぎゅっと握ったまま、起きようともせずに呟いた、「綿文の家屋敷を灰にして、あの火消し人足三人を叩っ殺してやる」

「穏やかでねえことをぬかすな」火を焚いてある土間から立って、目明しが彼のほうへ歩み寄った、「おい若ぞう、てめえおかしな寝言を云やあがると唯じゃあ済まねえぞ」

「唯で済まなきゃあどうする」栄二は半身を起こした、「これでもくらうか」

彼は相手の顔へ唾を吐きかけた。

五の二

栄二はうしろ手に縛られ、番小屋の土間の隅にころがっていた。彼は相手がなに者だか知らなかったが、唾を吐きかけられた目明しは怒り、十手でさんざんに打ちすえたのち、子分の者に栄二を縛らせ、足蹴にしたり、手桶の水をぶっかけたりして突き転がした。