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さぶ

さぶ

山本 周五郎

「週刊朝日」 1963(昭和38)年1月4日号~7月5日号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 210,521 字 · 415 页

青空文庫

七の一

「あにい知ってるか」と或るとき金太が云った、「才次のやつは伝馬町へ移されたぜ」

叺に詰めた牡蠣灰を、灰焼場から船へ積み込んでいるときで、二人とも頭から灰だらけになっていた。

「いつのことだ」

「三日めえだ」と金太が云った、「あにいは知らなかったらしいな」

「どうして移された」

「しゃばでやって、隠してたことがばれたらしい」金太はさかしげに云った、「よくわからねえが、なにかでけえことをやらかして、その罪をごまかすためにちっちゃなことをやって寄場へもぐっていたらしい、そんなような話だったよ」

「ような話なんぞするな」と栄二が云った。

「だって才次の野郎はあにいを恨んでたろう」と金太は云った、「いつでも隙があったら喉笛へくらいつきそうな顔をしてたぜ」

「だからどうだってんだ」栄二は叺を担ぎあげながら云った、「おらあそれを待ってたんだぞ」

金太はだらっと口をあいた。

七の一

可哀そうに、と栄二は思った。才次とはもういちどやるつもりだった、あのときは自分が先手を取ったけれども、こんどは才次のほうでも用心するだろう、対等で勝ち負けをきめることができる。庇ったり劬ったり、慰めや励ましにはごまかしがある。