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さぶ

さぶ

山本 周五郎

「週刊朝日」 1963(昭和38)年1月4日号~7月5日号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 210,521 字 · 415 页

青空文庫

六の一

寄場へ送られるようなことになったわけです、ええ」

ひどい女がいるもんだな、栄二は心の中でそう呟きながら、自分が番小屋へ曳いてゆかれたときのことを思いだし、怒りがこみあげてきて顔が歪んだ。

「ここへ来てから、いろいろなことがわかりました」と与平は溜息をついて云った、「女房には本当に私が厄病神のように思えたんでしょうし、子供たちにはまったくぐずなおやじだったんでしょう、人間は性分によって、ものの見かたも考えかたもそれぞれ違うもんです、私は自分を哀れだと思うばかりで、女房子の気持を考えてやらなかった、いまでは自分のほうが悪かったと思っていますよ、ええ」

栄二はじれったくなり、そんなことだから女房にまでなめられるんだと、どなりつけてやりたくなった。本当にどなろうとしたが、そのとき「始めろ」という小頭の声がし、栄二は心で思っているのとは反対に、与平に振り向いて低い声で云った、「あっしは栄二という者です」

「よろしくな」と与平が云った、「頼みますよ」

六の一

二月下旬の或る夜、もっこ部屋で次郎吉が騒ぎだした。自分の包みの中から金がなくなっている、というのである。部屋にはめいめいの仕切り戸納があり、自分の物は各自で持つことを許されていた。