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さぶ

さぶ

山本 周五郎

「週刊朝日」 1963(昭和38)年1月4日号~7月5日号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 210,521 字 · 415 页

青空文庫

十四の二

五十がらみの貧相な男で、癇性というのだろうか、首が少し左へ曲っていて、早くちに話しながら、その首を絶えず振る癖があった。

「栄二っていうそうだな、いい眼だ、その眼はいい、気にいった」と茂三郎はせかせかと云った、「仕事がつかえてるのに手がたりなくって困ってるんだ、しっかり頼むよ」

こっちもよろしく、と栄二は頭をさげた。

十四の二

下谷の家は、坂本二丁目の横丁にある二戸建てで、隣りには増六という、中年の夫婦が住んでいた。間取りは六帖ふた間に、八帖ほどの板の間。勝手に厠が付いていた。井戸はすぐ裏で、勝手には造りつけのへっついがあり、手桶から水瓶、鍋釜まで揃っていた。――さぶは戸納をあけて、新しいふた組の蒲団をみせ、ひと組はおすえが作って来たものだと説明した。そのふた組は唐草の油単に包んであり、べつのところに、もうひと組の蒲団があった。

「これがおらのさ」とさぶは云った、「栄さんたちのには手もつけなかったよ、おすえちゃんが来たら、おらあべつになるからな」

「べつになるって」

「この間取りで三人はむりだ、そう思ったから金杉町のもとの長屋に手が打ってあるんだ」

なぜそんなむだなことをした、これで充分じゃあないか、そう云おうとしたが、栄二は口には出さなかった。