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さぶ
さぶ
山本 周五郎
「週刊朝日」 1963(昭和38)年1月4日号~7月5日号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 210,521 字 · 415 页
十の五
十の五
相変らず緊らねえやつだな、と栄二は思った。しかしそう思ったときには、自分の意志とは関係なしに、言葉が口をついて出た。
「よく来てくれたな、いろいろ心配をかけて済まなかった」と栄二は自分の口が云うのを聞いた、「おらあもう大丈夫だよ」
「よかった、よかった」さぶは手の甲で眼を横撫でにしながら頬笑んだ、「おすえちゃんから話を聞いて、おらあ胆をつぶしちまってね、ここへ来ても会っちゃあくれめえかと思ったんだが」
話が諄くなるのを避けるように、栄二が遮って反問した、「おらあ大丈夫だが、おめえのほうはどうだ、病気はもういいのか」
「ああ、おれなんざ心配してもらうこたあねえよ、おのぶちゃんがいい薬を教えてくれてね、腹くだしのほうなんだが、それが治ったら脚気のほうもおさまったよ」
「すみよしへいくのか」
さぶは顔を赤くして俯向いた、「――どうもね」と彼はきまり悪げに云った、「三日もいかねえと、気がおちつかねえもんだから」
「まだ葛西にいるんだろう」
「それがね、そうじゃねえんだが」さぶは口ごもった、「――そのことについちゃあ話があるんだが、その話はおすえちゃんから聞いてもらうほうがいいと思うんだ」