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さぶ

さぶ

山本 周五郎

「週刊朝日」 1963(昭和38)年1月4日号~7月5日号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 210,521 字 · 415 页

青空文庫

六の四

「強えんだな、あにい」と三十がらみになる人足の一人が栄二に云った、「やるんならあにいみてえに思いっきりやらなくちゃあいけねえ、久しぶりに胸がすうっとしたぜ」

栄二はその男を見もせず、なにも聞えなかったように黙って石を運んでいた。人足たちは感嘆と恐れの入り混じった眼つきで、ちらちらと栄二をぬすみ見ていたが、ただ一人、与平という男だけは悲しげな顔つきで、ときどき栄二を見ては首を振っていた。それはあたかも、可哀そうに、あんなことをしなければよかったのに、とでも云っているような感じにみえた。

六の四

才次は病人置場に十余日いた。そのあいだに三月となり、才次の代りに久七という、中年者が小頭に直された。

栄二にはなんの咎めもなかった。人足たちはもとより、才次も事実は隠しとおしたらしい。あのときは近くに人足たちがいたので、自分が初めに手を出した、ということを見ていた者がいるかもしれない。そうなれば却って自分に不利だから黙っていたのだろうが、実際には役人たちは知っていたようで、心学教師の立松伯翁が、講話のときそのことに触れた。

この寄場では十日に一度ずつ心学の講話があった。