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さぶ
さぶ
山本 周五郎
「週刊朝日」 1963(昭和38)年1月4日号~7月5日号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 210,521 字 · 415 页
彼は眼にはいるすべてのものを憎み、それに挑みかかった。家並みを見れば、それがさもさも安穏な生活をたのしんでいるようにみえて憎悪し、往来する人の中に満ちたりたような、幸福そうな男女を見れば、心の中で嘲笑し呪詛をあびせかけた。――だが、越前堀へかかったとき、たった一度だけ、栄二の心を強くひきつけたものがあった。堀に面した商家の土蔵に添って、七歳か八歳になる女の子が二人、陽の当る地面に茣蓙を敷き、その上に坐ってお手玉をしていた。
「お手のせ、お手のせ」と女の子の一人のうたうのが聞えた、「お手のせおろして、おさーらい」
栄二は立停ってそっちを見た。二人とも同いどしぐらいで、頭の毛をおたばこぼんに結い、派手な色の着物に、前掛をかけていた。
「お一つ、お一つ、お一つ」と一人の子が巧みにお手玉を捌いている、「お一つおろして、おさーらい」
あのころとそっくりだ、綿文の娘たち、おきみやおそのにさそわれて、自分もあんなふうにお手玉の相手をしたものだ。そう思うと理由もなく胸の中に湯のような熱い感情がこみあげてき、栄二の眼が涙でうるんだ。
「なにをぼやぼやしているんだ」と下役の者が栄二を小突いた、「さっさとあるかねえか」