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さぶ

さぶ

山本 周五郎

「週刊朝日」 1963(昭和38)年1月4日号~7月5日号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 210,521 字 · 415 页

青空文庫

そこで静かに起きあがり、納戸から道中差を取り出した。むろん亡くなった義父の品で、久しく出したことがないから、刃には錆がでていた。彼は抜身を持って寝間へ戻り、女房を揺り起こした。眼をさました女房は、彼が抜身を持っているのに気づくと、悲鳴をあげてとび起き、唐紙や障子を突き倒しながら、勝手口から裏へ逃げだした。

「その早いことったら」と云って与平はそっと喉で笑った、「――まるで尻尾に火のついたきちがい猫、っていう案配でしたよ、ええ、私もあとから追っかけてゆきましたが、女房のやつは人殺しだ人殺しだと叫びながら、路地の木戸も押しやぶり、中通りへ走りだして、誰か来てくれ人殺しだと、喉も裂けるような声で叫び続けたものです」

近所の人たちが出て来、与平が抜身を持っているので大騒ぎになった。六尺棒や物干し竿を持ち出す者があり、番小屋へ走ってゆく者があり、女房はその人たちに護られながら、なお人殺しだと叫びたてていた。

「刀を持ってたもんですから、そのまま番小屋へ曳いてゆかれました」と与平は続けた、「女房がありもしないことを数えたて、うっちゃっとけば自分も子供たちも殺されるだろうから、夫婦別れをしたいと云い張りました、私はまだのぼせていますから、別れようがどうしようが必ずきさまを殺してやると云い返し、つまりはこのとおり、――この