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さぶ

さぶ

山本 周五郎

「週刊朝日」 1963(昭和38)年1月4日号~7月5日号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 210,521 字 · 415 页

青空文庫

――尻尾に火のついたきちがい猫。

次郎吉のあとを追いながら、与平の云った言葉を思いだしたが、可笑しさよりも相手の卑怯さ、めめしさに肚が立つだけであった。中庭は暗く、向うの見張所の障子が、灯をうつしてぼんやり明るくなっている。次郎吉はそこへ駆け込むつもりだったのだろうが、途中で松田権蔵に捉まってしまった。

「助けて下さい」と次郎吉の泣き声で訴えるのが聞えた、「あっしはみんなに野詰めにされます、どうか匿っておくんなさい」

そこへ栄二が駆け寄った。そこまで来て初めて、次郎吉を捉まえているのが赤鬼だとわかり、栄二は両手を拳にして立停った。

「この男を野詰めにするそうだな」と松田はしゃがれ声で云った、「――ずいぶん大勢いるようだが、それだけの人数でなければ、こんな男の始末ができねえのか」

「その男を渡して下さい」と栄二が云った、「相手はあっし一人、ほかの者は見に来ただけです」

「きさまはぶしゅうだな」と松田が云った、「こいつにどんな恨みがあるんだ」

「あんたの知ったこっちゃあねえ」栄二は低い声できっぱりと云った、「そいつをこっちへ渡して下さい」

そして彼は次郎吉にとびかかった。