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さぶ

さぶ

山本 周五郎

「週刊朝日」 1963(昭和38)年1月4日号~7月5日号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 210,521 字 · 415 页

青空文庫

六の二

六の二

次郎吉は松田権蔵のうしろへまわり込もうとしたが、松田は捉まえていた手で、反対に彼を栄二のほうへ押しやった。

「乱暴はならん」と松田はしゃがれ声でどなった、「乱暴なことをしてはならん、喧嘩や暴力沙汰は禁じられている、人は忍耐が肝心だ、こらえ性のない者は損をするぞ、ええい、そこだぶしゅう、しっかりやれ」

栄二は次郎吉の頭を左右から殴った、両手の拳で力いっぱいに、右から殴り左から殴った。そのたびに次郎吉の躯は左へ右へとよろめいたが、突然おかしな悲鳴をあげてむしゃぶりついてきた。栄二は足がらをかけて投げとばし、馬乗りに押えつけて、またその顔を左右から殴りつけた。

「助けてくれ」と次郎吉は泣き声をあげた、「おら殺されちまうよう」

松田が歩み寄って、栄二の肩を叩いた、「もういいだろう、役所へ知れるといかん、よしにしろ」

栄二は殴るのをやめ、次郎吉を押えつけたまま荒い呼吸をしていたが、やがて起きあがると、そこにいる人たちから逃げるように、まっ暗な中庭の向うへ去っていった。――長屋の前を南のほうへ、病人置場、女置場の前を通りすぎて、護岸工事をしている水際までゆき、そこの枯草の上へ腰をおろした。